5 ABILITIES5大基礎体力の見える化

SPORTS DOCK SECRETS

スポーツ科学の第一人者である福永哲夫を中心に、スポーツ科学に情熱を傾ける若手研究者が議論を進める中で、競技力向上と健康増進において重要な基礎体力を知るには幼少期からの縦断的なデータを集める必要があると考え、研究を始めました。その結果、「視力・筋力・持久力・瞬発力・跳躍力」の5つはオリンピックの五輪のように1つも欠かすことができない重要な基礎体力であることを見出しました。
私たちはこの発見を多くの方と共感したい、基礎体力の重要性をもっと多くの方に知ってもらいたいと考え、この5つの基礎体力から検査を行う「スポーツ版人間ドック:スポーツドック」を広めることを決意しました。

5大基礎体力ABOUT 5 ABILITIES

競技力向上・健康の質の向上に重要な5つの基礎体力のエビデンスについてご紹介します。

– 視力

スポーツビジョンがよくなるメカニズム 〜外眼筋〜

スポーツで必要な眼の能力には、眼球を動かすための筋肉である外眼筋が関わります。スポーツビジョントレーニングによって外眼筋が眼球を正確に速く動かすことができ、動体視力などスポーツで必要な眼の能力が向上します。スポーツビジョンが向上すると認知判断の能力が高まり、競技パフォーマンス・安全運転の維持に繋がります。

スポーツビジョンがよくなるメカニズム 〜外眼筋〜

スポーツ場面と競技別重要性

私たちは、スポーツを行う時に無意識の中で様々なスポーツビジョンの能力を活用しています。
例えば、野球やバドミントンのようにボールやシャトルなどを視て、バットやラケットで的確に打ち返す時には動体視力を、サッカーやラグビーのように周囲の状況を把握する時には周辺視を利用しています。このように競技で必要となる能力は異なります。
下の表に私たちの研究によってわかった競技別のスポーツビジョン能力の重要性を示しています。
球技系スポーツは、特にスポーツビジョンが重要であることがわかりました。

スポーツ場面と競技別重要性
JPARCデータ
動体視力 速く動くものを正確にとらえる能力
眼球運動 視たいものに向かって眼球を速く動かし、正確に認識する能力
周辺視 1点を集中して視たときにはっきりと認識できる周囲の広さ
瞬間視 瞬間的に視たものを正確に認識する能力
眼と手の協応動作 眼で視たものに対して正確に反応する能力

トレーニング

アローズ・スポーツラボの検査で利用しているスポーツビジョン検査・トレーニングソフト「アローズアイ」で週1回のトレーニングを約半年間行うことでスポーツビジョンが向上することがわかっています。
1回のトレーニングが10分程度で終わり、週2~3回行うことでよりトレーニング効果が出やすくなります。
「アローズアイ」はアローズ・スポーツラボで購入することができます。

トレーニング
トレーニング
JPARCデータ

– 筋力

多くの方がご存知のように、筋力の強さは競技パフォーマンスと密接な関係があります。
では、筋力はどのような要因によって決まっているのでしょうか。
筋力を決定する要因である「神経系の適応」、「筋横断面積」について紹介します。

神経系の適応 運動単位の動員数

筋収縮は脳から出された指令が運動ニューロンを介して、筋線維に伝えられることによって起こります。
一つの運動ニューロンは複数の筋線維を支配しており、一つの運動ニューロンが支配している筋線維のまとまりを運動単位と言います。大きな力を発揮するときに、この運動単位が多く動員できているほど、筋収縮に多くの筋線維が加わることができるようになるため、より大きな筋力を発揮することができます。

神経系の適応 運動単位の動員数

運動単位と運動単位の動員数増加のイメージ図

筋横断面積の増加

筋は多数の筋線維で構成されており、筋横断面積は図のように筋を輪切りにしたときのような断面積の大きさを示します。
筋横断面積は筋を構成する筋線維が太くなることなどによって増加し、筋横断面積が大きいほど発揮できる筋力が大きくなることもわかっています。

筋横断面積の増加

筋横断面積とその増加のイメージ図

筋力とパワーの違い

筋力とパワー、一般的にはどちらも似たような意味で用いられますが、どのように違うのでしょうか?
筋力は言葉の通り筋が発揮する力の大きさを示しますが、パワーは「力×速度」という計算式で表されます。つまり、発揮された力だけでなく、その動作の速度も考慮しているのがパワーという指標です。

なぜ速度も考慮するのか?筋力と速度の関係

筋が発揮する力には力-速度曲線という性質があります。
力は動作の速度が遅いほど大きな力が発揮され、速度が速いほど発揮できる力は小さくなります。多くのスポーツでは、速い動作の中で大きな力を発揮することが求められます。
そのため、競技で活躍するには筋力が高いだけでなく、速い速度においてより大きな力を発揮することが必要です。
このように力と速度の関係を表したものを力速度曲線と言います。
力と速度を向上させるトレーニングの方法は異なるため力が課題か速度が課題かを見極めパフォーマンスを向上させるために最適なトレーニングを行うことが必要です。

図 筋の力-速度関係 JPARCデータ

加齢による筋力低下と健康

筋力は、日常生活における歩行能力などと関係しますが、筋力は加齢とともに低下してしまいます。これは、図のように加齢とともに筋量が低下してしまうことが原因の一つであると考えられており、下肢の筋量がある水準を下回ってしまうことで寝たきりのリスクが高まってしまうこともわかっています。怪我や病気によって運動できない状態が続くと、さらに筋力の低下が進行するため、筋力を高い水準で維持しておくことが重要です。

筋力

縦軸は大腿四頭筋の筋量、横軸は年齢を表しています。加齢とともに下肢の筋肉量が低下することがわかります。筋肉量がラインの水準を下回ると、正常な歩行が難しくなるとされています。

福永哲夫(2011) 健康で文化的生活を保障する生活フィットネスの確保: 身体教養のすすめ. 学術の動向, 11-39.

筋力

表は、日常生活からスポーツにおいて必要な筋力の大きさを表しています。WBIは、体重あたりの大腿四頭筋の最大筋力を表します。快適な日常生活を送るには、WBIを0.6より高い水準で維持する必要があります。

久保下 亮, 宮原 洋八(2014) 間接牽引が筋力増強運動に及ぼす影響 西九州リハビリテーション研究, 7, 1-5.

– 持久力

最大酸素摂取量

スポーツビジョンがよくなるメカニズム 〜外眼筋〜

最大酸素摂取量とマラソンの平均走速度との関係
最大酸素摂取量が高いランナーほどマラソンの平均走速度が速い
elite runner(ER) good runner(GR) slow runner(SR)
Sjödin B., Svedenhag J.(1985)Applied physiology of marathon running.Sports Med 2 (2),83-99.

最大酸素摂取量とは、体重1キログラムあたり1分間に筋肉で使える酸素の最大量を示し、全身持久力の代表的な指標となります。マラソンのような長時間動き続ける運動を有酸素運動というように、ヒトは酸素を利用して動くためのエネルギー源(ATP)を作っています。このATPは、主に細胞内に存在する細胞内小器官であるミトコンドリア内で、糖と脂肪を利用して作られています。このエネルギー生成経路を有酸素系と言います。つまり、体内でより酸素を利用できるほど、多くのATPを作ることができるため、マラソンなど持久力が必要な競技で活躍することができます。実際に最大酸素摂取量とマラソンの平均速度には関係があることがわかっています。

スポーツビジョンがよくなるメカニズム 〜外眼筋〜

グラフの縦軸は心血管が原因での死亡率と、横軸は最高酸素摂取量を表しています。死亡率と最高酸素摂取量が関係することがわかります。
American college of sports medicine (2013) 運動処方の指針 運動負荷試験と運動プログラム.日本体力医学会・体力科学編集委員会(監訳) 原書第8版

また最大酸素摂取量の値は、呼吸器系や心血管系の機能に依存するため、これまでの研究で、最大酸素摂取量と心血管系疾患によって死亡するリスクが関係することもわかっています。生活習慣病を予防し、健康で豊かな生活を送るには、最大酸素摂取量を検査し、年齢ごとに決められた基準に到達しているかを把握することが重要です。

換気性作業閾値

換気性作業閾値

マラソン平均速度と乳酸性作業閾値(LT)の関係を表しています(※換気性作業閾値と概念的にはほぼ同様のものになります) 。乳酸性作業閾値が高いほど、マラソンの平均速度が高いことがわかります。

中村 和照,仙石 恭雄,白井 祐介,鍋倉 賢治(2019)
フルマラソンの平均走速度と漸増負荷走時の血糖値の上昇量との関係性.トレーニング科学,31(2),85-92.

換気性作業閾値とはATP-CP系、解糖系の割合が急増し始めるポイントで、運動中はこの強度を境に体内でさまざまな変化が起こります。たとえば、呼吸が乱れだし、二酸化炭素の排出量が増え、そして筋では乳酸の蓄積量が急増します。また、感覚的には、足が急に重くなり、速度を維持するのが難しくなります。そのため、マラソンのレースペースはこの換気性作業閾値の強度を基準に設定することが多くなります。このポイントとフルマラソンの平均速度には関係があることがわかっています。

ランニングエコノミー

換気性作業閾値

様々な国のランナーのランニング中の速度と酸素摂取量の関係を表しています。
現代のマラソンでの活躍が著しいケニア人ランナーは、他国のランナーより各速度における酸素摂取量が少なく、ランニングエコノミーが優れていることがわかります。

榎本 靖士(2007)ケニア人長距離選手の生理学的・バイオメカニクス的特徴の究明
~日本人長距離選手の強化方策を探る~.第5回スポーツ研究助成事業報告書,財団法人上月スポーツ財団,1-22.

ランニングエコノミーは、一定速度で走行した際の酸素摂取量によって評価されます。同一速度であっても酸素摂取量には個人差が見られ、酸素摂取量が少ないほどエネルギーの消費が少なく、効率よく走れていることを示しています。現代のマラソンで活躍が著しいケニアのランナーは、他国のランナーと比較してランニングエコノミーが優れていることがわかっています。

マラソン成績

持久走パフォーマンスは、最大酸素摂取量、換気性作業閾値、ランニングエコノミーの3つによって、約70%が決定されると言われています。

– 瞬発力

30mを6本ダッシュした時のトータルタイムを示しています。プロ選手はアマチュア選手と比べて、間欠的スプリント能力が優れていることがわかります。

Aziz AR, Mukherjee S, Chia MYH, and The KC (2008) Validity of the running repeated sprint ability test among playing positions and level of competitiveness in trained soccer player. Int J Sports Med, 29, 10, 833-888.

瞬発力ではダッシュのスピードと同時に、速度を維持してダッシュを繰り返す能力を検査します。このような能力を、間欠的スプリント能力といいます。
間欠的スプリント能力は、サッカーやバスケットボール、ラグビーなど試合の中で何度もダッシュを行わなければならない競技で非常に重要な能力です。
アマチュア選手とプロ選手とを比較すると、プロ選手の方が優れた間欠的スプリント能力を有しているということも報告されています。

ダッシュを何度も繰り返すと後半には速度が減少してしまいますが、どうして速度が減少するのでしょうか。そのメカニズムとしては、以下の3つが考えられます。

  1. 1. クレアチンリン酸の低下
  2. 2. 神経伝達の阻害
  3. 3. 筋小胞体からのカルシウムイオン放出の減少

それぞれについて詳しく紹介します。

1. クレアチンリン酸の低下

6秒間の全力ペダリングを10回繰り返した時の1本目と10本目のクレアチンリン酸からのエネルギー供給量を示しています。

(Gaiganos et al.「Human muscle metabolism during intermittent maximal exercise.」より作成)

参考文献:Gaiganos GC, Williamn V, Boobis LH, and Brooks S (1993) Human muscle metabolism during intermittent maximal exercise. J Appl Physiol, 75 (2), 712-719

 ダッシュのような激しい運動時には、体内で素早くエネルギーを供給できるクレアチンリン酸が主なエネルギー源となります。ただしクレアチンリン酸は体内に蓄えられている量が少なく、何度もダッシュを繰り返しているとクレアチンリン酸からのエネルギー供給が減少し、その変わりにエネルギー供給速度が遅い有酸素系という別の経路からエネルギーが補われます。
そのため後半にスピードが落ちてしまう原因の一つと言われています。

2. 神経伝達の阻害

私たちは脳からの指令を電気刺激として運動ニューロンを通して筋肉に伝えることで筋肉を収縮させ、運動をしています。筋肉では、運動ニューロンから受け取った電気刺激をナトリウムイオン、カリウムイオンを介して感知します。筋細胞内にはカリウムイオンが多く、筋細胞外にはナトリウムイオンが多くなっているのですが、運動ニューロンからの電気刺激が伝わるとそのイオンバランスが逆転し、それにより運動ニューロンからの刺激を筋肉へと伝えています。
しかしダッシュを繰り返していると、筋細胞内にあるカリウムイオンが筋細胞外へと漏れ出してしまいます(Vollestad et al., 1994)。それにより脳からの指令が伝わりづらくなり、後半の失速の原因の一つと言われています。

神経伝達の阻害

3. 筋小胞体からのカルシウムイオン放出の減少

筋細胞の中にはアクチンとミオシンという、細長いタンパク質があります。
ミオシンには突起のようなものが付いていて、これがアクチンに結合して引き込むことで筋収縮が起こります。ミオシンがアクチンに結合して引き込むためには、筋小胞体から放出されるカルシウムイオンが必要になります。
脳から電気刺激が伝わると、細胞にある筋小胞体がそれを感知します。
筋小胞体にはカルシウムイオンが蓄えられており、脳からの刺激を感知するとカルシウムイオンが放出されます。しかしながらダッシュを繰り返すと細胞内でリン酸や水素イオン、活性酸素が発生することや、グリコーゲンが減少することでカルシウムイオンの放出が減少することが知られています(Hill et al., 2001)。
こうしたことによりカルシウムイオンの働きが悪くなり後半の失速の原因の一つとなります。

筋小胞体からのカルシウムイオン放出の減少

– 跳躍力

跳躍能力を決定する要因

跳躍能力を決定する要因は多様であり、様々な跳躍検査を行うことで、跳躍高を伸ばすための課題とトレーニング方法が明確になります。
跳躍能力を決定する主な要因としては以下の3つが知られています。

  • ・下肢筋力・パワー
  • ・反動動作による増強効果
  • ・上肢と下肢の連動

下肢筋力・パワー

下肢筋力・パワー

下肢筋力と立ち幅跳びの関係
JPARCデータ

高く、あるいは遠くへ跳ぶためには、高い下肢の筋力が必要になります。
実際に、膝伸展筋力と立ち幅跳びの距離には有意な相関関係があります。
また、跳躍能力を高めるためには、最大筋力が高いだけではなく、速い動作の中で大きな力を発揮するパワーも求められます。

反動動作による増強効果

反動動作による増強効果

反動なしと反動ありの垂直跳びの跳躍高の違いのイメージ図

垂直跳びのように立位から素早くしゃがみこむといった反動動作は、跳躍高を増強させます。これは、腱が伸張されることによって生まれる弾性エネルギーを利用できるようになることや、跳躍に必要な力を立ち上げるための時間が確保できるようになることなどによってもたらされると考えられています。

上肢と下肢の連動

上肢と下肢の連動

一流スポーツ選手の跳躍時の腕振り

跳躍を行うときに、腕はしゃがみ込みのときに後方に振り下げられ、下肢を伸展すると同時に上方に振り上げられます。腕の振り下げはより跳躍に必要な地面反力を高めるために必要となり、腕の振り上げは、上体を引き上げることで跳躍高の獲得に貢献します。

“科学的”な跳躍のトレーニング

跳躍能力のトレーニングのイメージ図

跳躍能力のトレーニングのイメージ図

このように跳躍は単純な動きのようで、様々な跳躍高を決定している要因があります。
様々なジャンプを行い比較することで、跳躍高を高めるために課題の要因を把握することが可能です。課題の要因に対して適切にトレーニングができれば効率よく跳躍能力を伸ばすことができます。

跳躍能力と疾走能力の関係

図 一跳躍能力のトレーニングのイメージ図

立ち幅跳びとスプリント中の最高速度の関係
JPARCデータ

跳躍能力は、ジャンプが重要となる競技のパフォーマンスに関係するだけでなく、走パフォーマンスとも関係性があります。例えば、図のように立ち幅跳びの距離と全力疾走を行ったときの最高速度には関係があります。これは、跳躍で使われる筋肉や腱といった組織や力発揮の特徴が走ることと類似しているためであると考えられます。
そのため、様々なジャンプを検査することで、走パフォーマンスを高める上で課題の能力を把握することができます。